「メガネ、絶対イヤ!」を乗り越えて

~Aちゃん一家の物語、その後〜

診察室にて

メガネを嫌がる子どもと、心配そうに見守る家族と医師の図

「先生、今日はまた違う相談なんですが……」

CS眼科クリニックの診察室で、Aちゃんのお母さんがそう切り出したのは、前回の受診から3ヶ月後のことでした。Aちゃんは、日常診療でよくみられる複数のケースをもとに構成した架空の事例です。前回のコラムをお読みくださった方は覚えていらっしゃるかもしれません。3歳児健診で遠視を指摘されたAちゃん。お母さんとしては見えていない様子もないし、「遠視」と聞いても治療が必要だとは思えず、それより時折眼が寄る「内斜視」気味であることの方が気になっていました。ただ、それも日和見的だったので「そのうち落ち着くでしょう」と思っていたのです。

内斜視がある場合の検査薬はアトロピンが第一選択であることを前回お話ししました。当院で使用する、小児にも適用する検査用の点眼薬には、ミドリン、サイプレジン、アトロピンの3つがありますが、遠視に加えて内斜視のみられたAちゃんには、遠視の内斜視への影響度合いを探るために、サイプレジンよりも、より調節力の麻痺にしっかり作用するアトロピンが処方されることになりました。自宅で1週間点眼したところ、点眼で調節を休ませている間は内斜視が現れず、遠視が内斜視に影響していたことが分かりました。そんなことから、お母さんもAちゃんの点眼薬を用いた検査の必要性に、理解を示してくださるようになりました。今のところ、メガネをかけていればほとんど内斜視が見られなくなっているAちゃん。お母さんはホッとしましたが、今度はまた別の悩みが出てきたのです。

それは、Aちゃんがせっかく作ったメガネをかけるのを嫌がるというものでした。
「せっかく作ったのに、嫌がってかけてくれないんです。幼稚園に持たせても、カバンから出してもいないみたいで……」とお母さんは肩を落としています。

視能訓練士として日々子どもたちの目と向き合っていると、この「メガネを嫌がる」というご相談は、診断名(遠視や近視、内斜視や外斜視)を問わず本当によくいただきます。今日はなぜ子どもはメガネを嫌がるのか、それをどう乗り越えていけばいいのかを、Aちゃん一家のその後の物語とともにお伝えしていきます。

メガネが、実は「斜視の治療」になっている

メガネの大切な役割を説明する図

Aちゃんのように「内側に目が寄る」内斜視の病態の一つに、調節性内斜視があります。強い遠視のお子さんに起こりやすいタイプの斜視です。

少し専門的になりますが、私たちの目は近くのものにピントを合わせるとき、「ピントを合わせる力(調節)」と「両目を内側に寄せる力(輻輳)」を無意識にセットで働かせています。遠視が強いお子さんは遠くを見るときですら人一倍ピントを合わせる力を使うため、それに連動して寄せる力も必要以上に働き、目が内側に寄ってしまうのです。

ここで登場するのがメガネです。遠視をきちんと矯正するメガネをかけると余分な調節力がいらなくなり、連動していた「寄せる力」も自然と弱まって、目の位置が整います。この、遠視のメガネをかけることで眼の位置が整うタイプを「調節性内斜視」と呼び、それだけでは補いきれずに内斜視が残る場合は、非屈折性調節性内斜視や部分調節性内斜視などと呼び分けます。幸いAちゃんは遠視のメガネだけで眼の位置が整うことが分かり、さしあたり3ヵ月ごとの経過観察に通院していただくことになりました。

つまりAちゃんのメガネは、
①遠視による弱視化を防いで視力を育てる意味と、
②過剰な「寄せ」を防いで眼の位置を整える斜視治療の意味を、併せ持った道具ということです。

①について補足すると、強い遠視を長く放置すると網膜に正しい像が結ばれない状態が続き、視力そのものの発達が阻害されて「弱視」になることがあります。もしAちゃんがこのままメガネをかけずに過ごしていたら、そうなっていく可能性もあります。矯正視力が十分出ていない場合には、弱視治療を先に行ってから斜視治療へ進みますが、②の通り、調節性内斜視ではメガネ一つで弱視対策と斜視の改善を同時に進められる点が特徴です。見た目はただのメガネでも、その中身は視力と眼位(眼の位置)、この二つを同時に支える、治療の主役としての役割を一つで担っています。

なぜ子どもはメガネを嫌がるのか

子どもがメガネを嫌がる4つの理由を説明する図

前回、お母さんが「いつも目が寄っているわけじゃないんです」と、お話しされていたのを覚えている方もいるかもしれません。調節性内斜視は、近くのものを見るときや疲れているときに寄りやすく、常に一定ではありません。ただ、この「いつもではない」という性質が、かえってご家族の間でメガネの必要性への理解を得にくくすることがあります。

ここで、主な理由を整理してみます。

①見え方に慣れない


「メガネをかけなくても見える」或いは
「かけない方が見える」子どもがこう言うと、親としては「度数が合っていないのでは?」と心配になります。ですが子どもの遠視メガネは、目薬を使って眼をリラックスさせた状態で検査して処方する、いわば本来の度数です。ふだん裸眼で過ごしていると「頑張って見る癖」がついているため、かけてもすぐにはパッと見えないだけで、合っていないわけではありません。かけ続けるうちに目がリラックスして、本来の見え方をだんだんに体得していきます。

また、「度数が強いと目に悪い」という誤解も根強く、遠視でも近視でも「とにかく弱くしてほしい」とご希望される親御さんも少なくありません。ですが特に遠視の場合、本来必要な度数よりも弱く作ってしまうと、網膜上にピントを合わせた状態を作って視力を育てるという本来の意味が薄れてしまいます。また特に、調節性内斜視のように、遠視による「眼の頑張り過ぎ」が斜視の引き金になっている場合、度数を弱めることでせっかくメガネをかけても、内斜視の治療上、意味のないメガネになってしまいます。度数が強いこと自体が問題なのではなく、その子の眼の状態に合っていないメガネをかけることこそが、避けたい事態なのです。

②かけ心地が気になる


初めて顔にメガネという「異物」を装着するわけですから、圧迫感や視界の違和感は大人が思う以上のストレスです。特に低年齢のお子さんほど、それを「気持ち悪い」「痛い」としか表現できず、「イヤ!」という拒否につながります。鼻あてやこめかみへのしめつけ、レンズ周囲から感じる景色など、いつもと違う状態に慣れていないことが、こうした訴えにつながることもあるので、メガネ屋さんとも相談して、かけやすいメガネを選んでみてください。

③周囲の目が気になる


成長に従い、お友達との違いを意識しはじめます。Aちゃんも「あのメガネかけてる子、と言われて嫌だった」とお母さんに漏らしていたそうです。大人には単なる目印として深い意味を持たなくても、子どもなりにプライドを傷つけられることがあるのです。

④家族の戸惑いが伝わる


「メガネをかけるなんて可哀想」「本当に必要なのかしら」という気持ちは、驚くほどお子さんに伝わります。それを敏感に察知したお子さんは、親御さんの期待に応えようと「かけなくても見える」と訴えることがあります。視覚が発達する時期に、ピントの合った景色を見せてあげられるかどうかは、その後の見え方に長く関わることです。目薬を使った検査の上での処方なら、それがお子さんの眼にとって今もっとも必要な治療だと捉えていただければと思います。

Aちゃんの場合も、①〜④が少しずつ重なり、「これが理由」と一つに絞れるものではありませんでした。

嫌がる子どもと、どう向き合うか

メガネに慣れるための5つの工夫について説明する図

実際にAちゃんのご家庭ではどう乗り越えたのか、ふだん私たちが外来でお伝えしている工夫と合わせてご紹介します。

①起きたらすぐにかける


特に「かけると見づらい」と訴えるお子さんには、目覚めてすぐ、寝ぼけている間にパッとかけさせるのがおすすめです。一度、裸眼で目を頑張らせてしまうと、後からメガネをかけてもすぐにはピントが合いにくくなります。遠視のメガネは見えない時だけかけるものではなく、常時かけることで「かけただけで見える状態まで見え方を育てる」いわば治療そのものを行う治療道具の意味があります。ですから「幼稚園に行くときだけ」「授業中、黒板が見えにくい時だけ」という使い方では、すぐに見えてこないためにかけたくなくなり、眼をリラックスさせた状態で見るという、遠視のメガネに本来期待される効果も得らなくなってしまいます。

②「治療」ではなく「なりたい自分」に


「治療だから我慢して」という声かけは、正論であっても子どもの心に響きません。Aちゃんの場合、好きなぬいぐるみにメガネをかけさせて「同じだね」と言ったり、メガネをかけたアイドルの写真を見せて「メガネをかけると可愛くなるね」と伝えたりしたところ、表情が変わったそうです。

③フレームを自分で選ぶ


「自分で選んだ」という感覚は、それだけで「自分からかける」動機になります。大人だけで決めてしまうと、子どもにとってメガネは「押しつけられたもの」のままです。診察室でお子さんのメガネを預かると、親御さんのセンスが光るシックなフレームや、こだわりの色合いのものに出会うことがありますが、そういうときほど私はお子さんに向かって「かっこいいメガネだね」「よく似合うね」と声をかけるようにしています。次回はぜひ、お子さん自身に選ばせてあげてください。

④「かけられた」ことを褒める


「偉いね」より「今日は帰ってくるまでずっとかけられたね!」など具体的に褒める方が効果的です。シール専用カレンダーを作り、かけられた日に一緒に貼っていくのもおすすめです。頑張りが目に見える形で積み重なっていくと、子ども自身のやる気にもつながります。

⑤園や学校との連携も忘れずに


からかわれる不安がある場合は、担任の先生に一言お願いしておくと、さりげないフォローをしてもらえることがあります。クラスに他にもメガネのお友達がいると分かるだけで、気持ちが軽くなる子もいますので、先生を通じてサポートをお願いしておくのも一つの方法です。

そして、うまくいかない日があっても大丈夫。
どんな工夫をしても、まったく嫌がらなくなるわけではありません。体調や気分によって、かけたがらない日ももちろんあります。「今日はダメだったから明日もどうせダメ」と決めつけず、昨日より少し長くかけられた、機嫌よくかけられた、かけている間も集中して遊べていた、など小さな変化に目を向けていただければと思います。

Aちゃんのその後

自分からメガネをかけられるようになった女の子と、それを見守る家族と医師の図

先日、3ヶ月ぶりの定期検査で来院したAちゃんは、自分で選んだピンクのフレームのメガネをかけて、待合室の椅子にちょこんと座っていました。

「先生あのね、お友達が『そのメガネ、可愛いね』って言ってくれたの!」

そう教えてくれたAちゃんの表情は、初診の頃とは見違えるほど明るいものでした。お母さんも「最近は、言わなくても自分からかけてくれるようになったんですよ。朝、目が覚めたらまずメガネを探すくらいです」とホッとした様子です。検査でも、メガネをかければ眼の位置は落ち着いており、担当医も「この調子で続けていきましょうね」と太鼓判を出してくれました。

おわりに

子どもがメガネを嫌がるのは、多くのご家庭が通る道です。「うちの子は全然かけてくれない……」と抱え込まず、ぜひ眼科の医師や視能訓練士に、ご自宅での具体的な様子を伝えてみてください。お子さんの性格によっても効く工夫はさまざまです。こちらも、良い方法がありましたら、ぜひ教えていただきたいと思っております。

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