「見えない」敵と戦う子どもたち

~アイパッチと弱視のお話

こんにちは、視能訓練士のコラム担当、目薬ひとみです。

前回、調節性内斜視のAちゃんが、眼鏡をかけて幼稚園に通い始めたお話をご紹介しました。最初は嫌がっていたAちゃんも、少しずつ眼鏡をかける生活に慣れてきた頃――今日はその続編。
登場するAちゃん・Bちゃんとご家族、その会話は、よくある事例をもとにした架空のものです。

眼鏡仲間、見つかる

メガネをかけた女の子2人とそれぞれの母親が向き合っている図

ある日の午後、Aちゃんのお母さんがお迎えに行くと、年長組のBちゃんのお母さんに声をかけられました。

「Aちゃん、最近眼鏡かけてるよね。実はうちのBも、この間から眼鏡になったの!」

聞けば、Bちゃんも数週間前から眼鏡をかけて登園するようになったそう。同じタイミングで子どもが眼鏡デビューした親同士、話は自然と盛り上がります。

「うちは斜視なの。それで眼鏡をかけているのよ」とAちゃんのお母さん。

「うちは『不同視』って言われたんだけど……それ何?ってなったわ(笑)」とBちゃんのお母さん。

「眼鏡だけじゃなくて、家じゃアイパッチもしてるのよ」

「アイパッチ!? それ何?」

「片方の眼にシールみたいなのを貼って、隠すの。うちの子、眼鏡は嫌がる程度で済んでるからまだいいけど、アイパッチの方がもっと嫌がるのよ。眼の周りもかぶれちゃうし、しかも地味に高いし……」

眼鏡を嫌がるだけでも一苦労だったのに、その上にアイパッチまで。Aちゃんのお母さんは、「うちは斜視だけど、アイパッチはしてないな。斜視だとアイパッチしなくていいのかしら?」と、新たな疑問を抱くのでした。

今回は、この会話に出てきた「不同視」「弱視」「アイパッチ」、それぞれの治療と関連について整理します。

「不同視」ってどんな状態?

不同視の状態について説明する図

不同視(ふどうし)とは、左右の屈折度数(近視・遠視・乱視の強さ)に、大きな差がある状態のことです。たとえば右眼はほとんど遠視も近視もない「正視」なのに、左眼だけ強い遠視や乱視がある、というケースです。両眼ともに見づらいわけではなく、あくまで度数に「左右差」があることがポイントです。

厄介なのは、この状態がとても気づかれにくいことです。片方の眼が見えれば、日常生活で困ることはほとんどありません。だからこそ、不同視の多くは、3歳児健診や就学前健診で見つかるか、ものもらいなど別件での眼科受診をした際に、初めて発見されます。Bちゃんも、おそらくそうした受診や健診がきっかけだったでしょう。そして、この不同視が招く最大のリスクが「弱視」です。

ただし、不同視のすべてが弱視になるわけではありません。近視と正視との不同視なら、近くを見るときは自然と近視眼を使うことになるため、眼を使わないために弱視になるリスクはずっと少ないです。

一方、遠視による不同視は要注意です。ピント合わせ(調節)は、左右の眼が同じ量だけ連動して働きます。そのため片方だけに遠視がある場合、遠視の弱い方(正視に近い方)の眼に合わせて調節量が決まるため、遠視の強い方の眼は、常にピントが足りず――慢性的にぼやけた像しか届かない状態が続いてしまいます。

両眼の遠視が同程度なら、両眼とも同じだけ調節しようとするため、どちらか一方の眼だけが慢性的に「ピント不足」にはなりにくい。一方で、度数に左右差がある「不同視」は、片方の眼だけをピント合わせから置き去りにしてしまう構造を作り、弱視化のリスクを高めてしまいます。

「弱視」は、ただの視力不良ではない

「弱視」はただの視力不良ではないことを説明する図

「弱視」と聞くと、「視力が弱い、見づらい状態」あるいは「何らかの病気のために、ほとんど見えていない状態」をイメージされる方が多いのですが、実は少し違います。

弱視とは、眼の器官そのものには大きな病気がないにもかかわらず、視機能の育つ「視覚の感受性期」に、脳へ鮮明な像(視覚刺激)がきちんと送られず、「見る力」そのものが十分に育たなかった状態です。
視力は、生まれつき完成しているものではなく、赤ちゃんの頃からピントの合った像を繰り返し見ることで、「見る力」が育ちます。この大切な時期に、

  • 片方の眼だけに、強い遠視・乱視のある「不同視」であったり、
  • いつも決まった眼が、常にずれているタイプの斜視。
  • 何らかの事情で長期に眼帯をしていたとか、
  • 先天性白内障など、鮮明な像が網膜に届きにくい病気がある、

等の理由で、片眼(あるいは両眼)にくっきりした像が届かないと、見る力が育たず、弱視化するのです。

教科書的にはおよそ8歳頃までが「視覚の感受性期」とされています。つまり、発見が遅れるほど、治療のために残された時間は短くなりますから、見えない様子がないからと健診や通院を軽視する――これが「不同視」を見逃し、弱視化させてしまう、最も避けたい展開です。

なお、斜視や弱視の治療用眼鏡には、9歳未満のお子さんを対象に、健康保険から費用の一部が支給される制度(療養費)があります。いったん全額をお支払いいただき、後からご加入の健康保険に申請する仕組みです。申請には、医師が出す「作製指示書(眼鏡処方箋)」の写しと、眼鏡の領収書などが必要です。作り直す場合も、前回の支給から、5歳未満のお子さんは1年以上、5歳以上のお子さんは2年以上たっていれば、再び対象になります。自己負担分を独自に助成している市区町村もありますので、詳しくはご加入の健康保険や、お住まいの自治体の窓口でご確認ください。

なぜ眼鏡だけでは足りないのか

眼鏡だけでは治療として足りないことを説明する図

不同視に起因する弱視には、まず眼鏡です。視覚の感受性期には、眼鏡をかけて経過をみるだけで、視力が育っていくお子さんも少なくありません。

ですが、眼鏡をかけてしばらく経過をみても、矯正視力の伸びが十分でない場合には、さらなる治療として、良い方の眼を隠して弱視の眼を強制的に使わせる、「アイパッチ」が検討されます。なぜなら、片眼だけを使う癖がついていると、せっかく眼鏡で両眼のピントを合わせても、脳が「楽に見える(正視に近い)眼の情報だけを採用する」クセを崩しきれず、弱視のある眼は相変わらず使われないまま、発達が進まないことがあるからです。そこで、良い方の眼を意図的に隠し、弱視のある眼を「使わざるを得ない」状況を作り出す。これがアイパッチの役割です。

ここで誤解のないようお伝えしたいのは、アイパッチは、弱視と分かったらすぐに始める「最初の治療」ではないということです。弱視治療の基本は、あくまでも眼鏡です。早めに見つかり、眼鏡をきちんとかけ続けることができれば、それだけで視力が育っていくお子さんも少なくありません。アイパッチは、眼鏡をかけて経過をみても視力の伸びが頭打ちで、このままでは感受性期のうちに視力が育ちきらない――つまり、治療上の時間的な猶予が少ないと判断した場合に検討されます。ですので、アイパッチを始める時期は、お子さんの状態によって異なります。ただし、よく見えている方の眼を隠す以上、①隠された方の眼が逆に弱視化してしまうリスクや、②両眼視機能の発達を妨げてしまうリスクも伴います。そのため眼科医は、その効果とリスクを天秤にかけ、お子さんの年齢や視力の伸び具合を見ながら、始める時期や貼る時間を慎重に判断します。ですので「長時間、やればやるほど良い」というものでは決してありません。アイパッチをすすめられたときは、「見る力が育つ時期のうちに、もう一歩しっかり育てておきたい」という担当医からのメッセージでもあります。感受性期はおよそ8歳まで。この時期を過ぎると、視力を伸ばすことは難しくなるとされています。「嫌がるから、今日はやめておこう」が続きそうなときは、一人で抱え込まず、早めに担当医や視能訓練士にご相談ください。貼る時間や方法を一緒に見直すことができます。

アイパッチが「もっと嫌がられる」理由

アイパッチが子どもに嫌がられる理由を説明する図

アイパッチを、子どもが眼鏡よりも嫌がるのには、いくつか理由があります。

①まず視界の変化です。弱視の眼は、眼鏡をかけてもまだ十分には見えません。そこへ見やすい方の眼を完全に覆ってしまうため、立体感がなくなり、距離感がつかみにくくなります。遊びの最中に不自由さを感じて、子ども自身が不便だと感じやすいのです。

②次に肌への負担です。アイパッチは肌に直接貼るシールタイプのものが主流で、眼の周りの皮膚がかぶれたり、赤くなったりすることがあります。眼鏡と違い、アイパッチは「肌そのものへの刺激」が加わる分、嫌がる度合いが強くなりやすい。これを和らげるため、シールの縁をギザギザに切って貼るたびに少し位置をずらしたり、眼鏡の片目を覆う布製タイプを使うご家庭もあります。

③そして見た眼の問題も無視できません。「なんで貼ってるの?」とお友達に聞かれることへの戸惑いは、幼児期の子どもにとって、大きなストレスです。

④さらにアイパッチは消耗品なので、継続的にコストがかかります。眼鏡と違って公的な補助の対象にもならず、費用は全額自己負担。一日一枚あたり数百円、可愛い柄のものはその倍近くします。それを嫌がって剥がしてしまえば貼りなおすため、Bちゃんのお母さんが漏らしていた「地味に高い」という本音――これも見過ごせないポイントです。

斜視には、アイパッチをしないの?

斜視にはアイパッチをしないことを説明する図

ここでAちゃんのお母さんの疑問に戻りましょう。「斜視は、なぜアイパッチをしないのか」という疑問です。

結論からいうと、アイパッチは「斜視の治療」ではなく、「弱視の治療」です。ですから、斜視があっても、斜視眼に弱視を伴わなければ、パッチは不要です。

斜視自体は、眼鏡や、場合によっては手術などで見え方を整え、視線を揃えるための治療が中心になります。ただし斜視があることで、斜視になりやすい方の眼が弱視化することがあります。特に、斜視になる方の眼がどちらの眼かに決まり、常態化している場合には、その眼を使わなくなってしまい、視力が発達せず弱視化することがあります。こうした「斜視性弱視」を起こしている場合には、斜視のお子さんでも、普段よく使っている方の眼(固視眼)にアイパッチが処方されます。

つまり、

  • 不同視による弱視 → 基本は眼鏡、眼鏡だけで視力の伸びが不十分な場合は+アイパッチ
  • 斜視のみ(弱視を伴わない) → 眼鏡や経過観察、必要に応じて手術
  • 斜視+弱視を併発 → 眼鏡+固視眼へのアイパッチ、加えて手術など斜視自体への対応

というように、お子さん一人ひとりの眼の状態によって、必要な治療の組み合わせが変わります。Aちゃんは調節性内斜視で、ピントを合わせようとして調節をしている分、視力そのものは出ており、弱視を伴っていないため、アイパッチは処方されません。同じ「眼鏡デビュー」でも、その裏にある診断や治療方針は、実は一人ひとり違うのです。

なお、斜視で、視能訓練がまだ難しい年齢のお子さんには、左右の眼に一日ごとずつ交互にアイパッチを貼り替える「交代遮蔽」という方法を、抑制除去という、弱視治療とは別の目的で行うことがあります。これは、斜視眼に投影された視覚情報を脳が抑制(無視)する、という両眼の対応関係を断ち、網膜全体をきちんと使わせる目的で行うものです。同じ「アイパッチ」という道具でも、弱視治療そのものか、斜視訓練の下準備なのかで、狙いが違うこともあるのです。

アイパッチが難しいときの選択肢――ペナリゼーション

アイパッチをが難しい時の選択肢、ぺなりゼーションを説明する図

ところで、アイパッチを本来の弱視トレーニングの一環として行おうとしても、様々な理由や事情で、どうしても難しいお子さんもいます。そうした場合に検討されるのが「ペナリゼーション」という方法です。

これは、正視の眼、ないし正視に近い方の眼に、アトロピンという瞳を開く点眼薬を使い、近くの見え方をわざとぼやけさせることで、相対的に弱視のある眼を使わせるという治療です。物理的に眼を覆ってしまうアイパッチとは違い、両眼開放の状態で行うため、両眼視の機能を大きく崩さない点がメリットです。

ただし、眼を覆わないから心理的な負担が軽いとは、一概に言えません。周囲から見て「今、治療中だ」とわかりにくいぶん、本人が感じているまぶしさや見えにくさにも周りが気づきにくく、かえって不調が見過ごされやすいという側面があります。アイパッチのように、誰の眼にも分かりやすい治療とは違い、ペナリゼーションは負担が表に出にくいからこそ、周囲の丁寧な観察と声かけが欠かせません。

また、点眼薬である以上、まぶしさを強く感じる、近くのものが見えにくくなるといった副作用もあり、積極的に選ばれる治療ではありません。使うかどうかは、お子さんの状態を見ながら担当医が判断します。

「うちの子はアイパッチを本当に嫌がって……」というご家庭は、まず担当医にご相談ください。必要に応じて、お子さんの弱視治療に詳しい医療機関への紹介を相談できることもあります。

嫌がる子どもと向き合う、ご家庭へ

アイパッチを嫌がる子どもと向き合うための工夫を説明する図

眼鏡もアイパッチも、大人が思う以上に、子どもにとっては「日常が変わる」大きな出来事です。嫌がるのは、決してわがままではなく、ごく自然な反応だと私たちは考えています。

アイパッチを嫌がるお子さんに、クリニックでよくお伝えしているのは、次のような工夫です。

  • 好きなキャラクターや柄のアイパッチ・眼鏡フレームを選び、「特別なアイテム」として前向きに捉えてもらう。
  • 装着できた時間や日数をシールやカレンダーで見える化し、達成感を演出する
  • 「見えるようになるための修行」ではなく、「ヒーロー・ヒロインの特訓」といった物語にして楽しく伝える
  • 肌トラブルがある場合は、貼る位置を少しずつ変える、低刺激タイプの製品に変更するなど、早めにクリニックへ相談する

そして何より大切なのは、多少嫌がる日があっても、「できなかった」ことを責めず、「今日はここまでできたね」と積み重ねを認めてあげることです。弱視治療は、視力の感受性期に限り、まだ挽回のチャンスがあります。焦らず、しかし油断せず、根気強く続けていくことが何より重要です。

おわりに

Aちゃんとお母さんが、Bちゃん親子との出会いを通じて、不同視や弱視、アイパッチという新しい言葉に触れたように、子どもの眼にまつわる治療は、実にさまざまなパターンがあります。同じ「眼鏡」という道具であっても、治療の方向性や目的は患者さんによって違います。これに戸惑われる保護者の方も少なくありませんが、それは決して珍しいことではなく、むしろ当然のことなのです。

眼鏡を嫌がる、アイパッチを嫌がる――そのひとつひとつの「嫌がる」の裏には、お子さんの成長にとって大切な意味があります。もし今、お子さんの視力や治療について気になることがあれば、どうぞ遠慮なく、私たちスタッフにお声がけください。

次回は、アイパッチを始めることになったBちゃん親子の毎日を通して、「嫌がる」気持ちとの付き合い方や、ご家庭でできる工夫をご紹介する予定です。どうぞお楽しみに。

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